第四話 六

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第四話 六

 

 

出発チェック待ちで、風弥達行動班のメンバーはロビーに集合していた。
「風弥が悪いんだぜ!隠すような事するから」
先ほどの失態について、靖則が恭子に訴える。脇で悠介も頷いていた。
一方の風弥も不満そうである。小学生に間違われたなんて言ったらとんだ笑い話だ。黙っていたいのは当然の事だった。
「そういえばさ、結局今日はどこ行くんだ?」

「まずは壬生寺、京都タワー、北野天満宮と続いて最後にチェックポイントの金閣寺よ」
風弥が訊ねると、恭子はしおりにびっしり書かれたメモを一通り読み上げる。風弥がウンザリした所で行動予定は終了した。まさに、仕切り屋の恭子が考えたコースだった。
「時間余ったら嵐山戻ってお買い物だよね、恭子ちゃん」
「わかっているって、明日未」
恭子はしおりを閉じ、列の前を向いた。とうとう風弥達の番がまわってきた。
「二組六班、五名全員います」
風弥は広田に報告する。
「気をつけて行って来い」
広田は豪快に笑った。七時五十三分―班別行動開始である。

『はなかがり』から歩く事二十分。風弥達は嵐山の駅に到着した。どこの班もここまでの道のりは同じなので、道中は合同班状態だった。
風弥達一行は順調に壬生寺の見学を終えると、京都駅への移動のため、再びJRの駅へと舞い戻る。ホームには既に電車が止まっていた。
「あれに乗るぞ!」
風弥は一人、全速力でホームを横切った。しかし、無情にも電車のドアは閉まり発車のベルが鳴る。
「惜しいなぁ・・・」
息を切らせながら風弥は電車を見送る。ふとホームの反対側に目を向けると、停車していた電車の扉が閉まった。その瞬間、風弥の目には見慣れた人物が映った。
電車の中に金髪の男『美咲ケン』がいたのだ。それはほんの数秒の出来事だった。
「お前だけ乗れたってどうしようも無いだろ!」
後から悠介の叫び声が聞こえた。四人はようやく風弥に追いつく。
「どうしたの?風弥君?」
ぼんやりと反対ホームに突っ立て、電車を見送っている風弥の顔の前に、明日未が手をかざす。
「いっ、いや。今の電車に知り合いに似た人が乗っていて・・・」
我に返った風弥は、慌てて説明する。
「そういうのって、大体他人の空似なのよね」
恭子が冷めた顔で、冷静に言った。風弥もそう思った。数秒見えて印象に残っているのは金髪だけ。金髪の人間なんて珍しくないし、まさかケンが京都にいるはず無い。
見間違いだと自分に言い聞かせ、風弥は何事も無かったかのごとく班見学を再開した。

無事に見学日程をこなし、一行は再び嵐山に降り立った。時間は四時少し前、五時に旅館到着の予定だから、小一時間ほど余裕がある。勿論、目的は決まっていた。
「うーん・・・どっちの方がカッコイイかな・・・」
明日未は二枚の写真を見比べていた。表情は真剣そのものである。
店内にいる男女は殆どがお目当てのアイドルの生写真に釘付けになっていた。
「まだ決まらないのかな・・・」
風弥は溜息をつく。風弥と悠介はアイドルグッズ専門店の前に座り込んでいた。
「あの調子だと一生決まんないと思うぜ・・・」
呆れた様子で悠介が呟く。悠介はあまり興味が無いらしい。
「そういや・・・さっきから恭子と靖則が見当たらないけど、どこ行ったんだ?」
「向かいの土産物屋に入ったきりだよ」
風弥はその店を顎で指した。
「あの二人、まだ買う気か?すげえなぁ・・・」
二人の山のような荷物が、悠介の脇に積まれていた。
「・・・俺も土産買わなきゃなぁ・・・」
土産の抹茶プリンを期待している朋之の顔が頭に浮ぶ。勿論、京都タワーできちんと買う物は買った。
しかし、風弥はたった一人だけ、さんざん悩んだ挙句何も買えなかった人物がいた。
「・・・智隼さんの分、どうしようかな・・・」
智隼のお土産が全く思いつかなかった。
「いっそ、八橋でいいかな・・・」
もうお土産を買う機会は無い。この時間に何とかしなければならなかった。その議題に頭を痛めつつ、ぼんやりと辺りを見回している時だった。
風弥は自分の目を疑う光景に出会った。
一般の観光客の中で、明らかに浮いている二人組がいた。一人はやや天然がかった黒髪に薄紫色のサングラス。ジーンズと青いTシャツに白いパーカーをはおり、黒い鞄を肩から下げている。もう一人は少し長めの白い髪に、大きめの黒いサングラス。薄い水色のジャージ上下を身にまとっている。右頬の中央にはホクロがあるかなり大柄な男だ。
これも錯覚と思い込みたかったが、紛れもない現実だ。
「元希!磨雪さん!」

風弥が目を丸くしたまま叫んだ。

 

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