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第四話 弐
水曜日の早朝、日も昇る前。風弥は眠い目を擦りながら、ベッドから身を起す。
昨日は早く床に着いたが、なかなか寝付けずに『花鳥風月』のCDを聴きまくっていた。案の定寝不足である。
手荷物の確認をしてから風弥は学ランに着替え、階段を下りた。台所では、母親の美弥が使い捨ての容器に、昼食用のお弁当のおかずを詰めている真っ最中だった。
「おはよう、昨日は随分遅かったけど、大丈夫?」
「なかなか眠れなくて・・・。でも今は平気」
言葉とは裏腹に大あくびをする風弥。テーブルの上に置いてある菓子パンを手に取った。
「あっ、風弥。そこにあるお金、持っていきなさい」
菓子パンの脇に五千円札が一枚広げてあった。
「元希君とバンドの皆さんに、いつもお世話になってるんだから。ちゃんとした物買ってくるのよ」
つまりお土産代という訳だ。美弥は風弥のバンド活動に関して、口うるさい事は言って来なかった。『元希君がついているんだから』と、いたってのん気だ。
「大丈夫、この前の日曜日にしっかり聞いてきたから」
風弥はお土産リストをめくる。とはいったものの、『花鳥風月』のメンバーと数人のご近所さんの名前しかない。部活へはお金を出し合って買うし、仲のいい友達はみんな一緒に行くからお土産はいらないのだ。
「朋之さんは抹茶プリン、元希はお茶」
風弥は今一度メモの内容を確認し、心の中で呟いた。
「ケンさんは『要らない』って言っていたけど、磨雪さんもいることだし生八橋にするか・・・」
そんな事を考えながらリストの書き込みを眺めている途中、風弥の目線はある一点で止まった。
『智隼さん』とかいた欄は空白のままだった。
「・・・けがの具合いいのかな・・・」
風弥は深い溜息を漏らした。
「どうしたの?変な顔して」
美弥に気づかれないように、風弥は笑顔を作った。
「ううん、何でもない・・・」
風弥は笑いながら首を横に振った。
早朝だというのに、駅前の公園は中学生の集団でにぎわっていた。生徒達は落ち着かない様子で整列している。
「よっ、おはよう!風弥!」
悠介がいつになくハイテンションで風弥に飛びつく。
「お前にしては遅かったな。そろそろ出発式始まるぜ!」
悠介は風弥の腕を掴み最前列へと向かった。クラス別に行動班ごとに列を作っている。
「おはよう、根本君」
恭子が声をかけた。明日未、靖則とも挨拶を交わす。二日目の行動班のメンバーはもう既に全員揃って整列していた。
『静かにしてください!』
拡声器を通した旅行委員の声が聞こえた。ざわついていた生徒達は会話を一時中断する。
『開会の言葉。校長先生お願いします!』
いよいよ修学旅行の始まりだ。風弥は緊張と興奮で胸が一杯だった。
出発式を終え、一行は電車に乗り一路東京駅へと向かった。そこから新幹線で京都を目指す。新幹線の車内ではにぎやかに昼食を取り、思ったよりも早く京都駅に到着した。
一日目はそのまま奈良へと向かう。修学旅行の典型的パターンである。奈良公園は行動班単位、東大寺、薬師寺をクラス単位で見学、バスで旅館に移動した。
第四話 参へ