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第四話 壱
本番を控え、『花鳥風月』のメンバーはいつも通り、着替えをしている最中だった。
「おっ、チビ助カッコイイじゃん!」
「似合ってるぞ、風弥」
「本当、凄くいいよ!」
三者三様の反応が返って来た。新しい『フウ』専用の衣装に身を包んだ風弥は、なんとなく照れくさかった。
「・・・えへへ・・・」
磨雪は口約通り、今日のライヴに間に合うように、フウの衣装を完成させた。磨雪本人は仕事の都合で来れないため、衣装はケンから手渡されたのだった。
「不都合があったら遠慮なく言えってさ」
ケンが言付けをそのまま伝える。
「・・・そんなこと無いよ。すごい楽だし、ピッタリだぁ」
うれしそうに風弥は身を翻す。黄緑色の羽織と純白の組紐が鮮やかになびく。
「後でお礼言いに行かなくちゃ」
風弥はふとある事を思い出した。
「・・・そうだ、お土産何がいいか聞くの忘れてた」
「お土産?」
元希が肩をまわしながら聞く。衣装を身につけてからの準備体操は、ライヴ前の元希の習慣だった。
「うん、今週修学旅行で京都行くから」
「もうそんな季節か・・・」
納得して頷く元希。その脇で朋之が幸せそうに笑っていた。
「京都かぁ・・・僕抹茶プリンがイイなぁ」
朋之の頭の中は既にお菓子の事でいっぱいになっているようだった。
「わかりました。抹茶プリンですね」
風弥はメモ帳のお土産リストに書き込んだ。
「何日出発だ?」
「今週の水曜日だよ」
「あれ?俺のときは日曜日出発だったぞ?」
「土曜日が休みになっただろ。水木金って京都行って、土日に休ませてくれるらしいよ」
「・・・ふぅーん。学校も結構粋な計らいするもんだなぁ・・・」
元希は素直に感心していた。
「俺は、お茶がいいな緑茶!」
一通りの会話をしてから突然お土産の話に切り替わる元希。
「わかったよ・・・」
実は既に『元希はお茶』と記入済みだった。風弥にとっては予想通りの答えだったのだ。
「ケンさんは何がいいですか?」
「・・・えっ、俺?いいよ別に」
驚いた様子で慌てて言葉を返すケン。
「遠慮しなくてもいいですってば」
「・・・そんな気使うなって、京都楽しんで来いよな」
ケンはそう言うと、お決まり動きで風弥の頭を撫でた。だが風弥は、修学旅行の話題になってからケンの様子がどこかおかしい気がした。ほんの僅かだが違和感を感じていた。
「みんなーっ!今日は来てくれて、マジサンキューな!」
だが、ライヴのケンは普段と何も変わらなかった。
観衆の声援に、ベースをかき鳴らし陽気に答える。
「次の曲は『NO GOOD?』、行くぜ!」
ケンのコールを合図に、背後から元希のドラムが鳴りだした。シンセサイザーも主旋律を奏で出し、それに合わせてベースが入る。歓声が湧く中、フウはリズムに合わせ体を揺らした。
そして軽く息を吸い、タイミングを計って歌いだした。
現実はやり直しが効かない 一発勝負
ドラマの撮影みたいに TAKE2は無い
一言 一文字 言い間違えて
全てが台無しなんてしょっちゅうだ
恋も仕事も (no good×2)
やり直せないの? (no good×2)
過ぎた時間は (no good×2)
タイムマシンが無い限り取り戻せないのだから
現実を好きに作りかえられる バラエティー
今のところナシ!カットね! タレントは言う
編集して 発言変えて キャラ作り
だから現実NGナシ わかる?
生まれ育ちは (no good×2)
やり直せ無いの? (no good×2)
過去の時間は (no good×2)
タイムマシンが無い限り取り戻せないのだから
フウの心配をよそに、ケンはいつも通りの演奏を披露した。勘違いだと確信したフウは、胸を撫で下ろすと共に改めて歌に集中した。
悔やんだって仕方ない
じだんだ踏んでも無駄だって
少し反省 すっかり忘れて
頭を切り替えよう
自分の将来 (ok×2)
これからだもんね (ok×2)
未来の時間は (ok×2)
タイムマシンが無くっても いずれわかるさ
その後も次々と曲を披露し『花鳥風月』のライヴは本日も大盛況で幕を下ろした。
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