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第三話 七
陽はすっかり暮れていた。元希は眼鏡をかけ、パソコンに向かっていた。卒業論文製作の真っ最中である。元希は普段裸眼だが、パソコンなどの細かい作業の時だけ、眼鏡を使用する。
「・・・少し休憩するかな・・・」
そう呟くと、元希はイスから立ち上がった。背伸びをすると、体中の関節から音がした。
「紅茶でも飲むか」
元希は眼鏡をパソコンの脇に置き、台所に向かった。その時、玄関の呼び鈴が鳴った。
呼び鈴の音に、元希は少し驚いた。
「誰だ?こんな時間に・・・」
いつもなら、ケン達が上がりこんでくるが、今日は妹が来ると言っていたから違う。という事は・・・考えをめぐらしながら、元希はチェーンロックを解除し、ドアを開けた。
「・・・風弥・・・」
目の前には、制服姿の風弥が背筋をのばし立っていた。
「やっほう、元希」
風弥はにっこりと微笑んだ。
「どうした?こんな時間に・・・」
元希は心底驚いた。
やっぱり元希は元希だ。いつもと変わらない。
それを確認出来ただけで、風弥は満足だった。
「・・・別に。元希の顔が見たくなっただけ。じゃあ、俺帰るね」
「待てよ風弥」
一度は背を向けた元希に、風弥は再び顔を向けた。
「・・・腹減っているだろ。夕飯、食ってかないか?」
「・・・うん!」
たわいの無い会話だが、二人にはそれで十分だった。
「俺、カレーがいいな!」
靴を脱ぎながら、風弥が言った。
「今からじゃ無理だって。今日は焼き魚だ。さ・か・な」
玄関のドアを閉めながら、元希が強調して言う。
その日の夕食が特別おいしかったのは、言うまでもないだろう・・・。
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