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第六話 四
「俺が取るから!いいの!」
頑固者の風弥は、再び笹の葉に手を伸ばし始める。一度こうなってしまったら、てこでも動かないのを知っていたので、元希は解決策を見出すべく、頭をフル回転させた。
そして暫く考えた元希は素早く風弥の後方にまわると、体勢を低くし、風弥の両足首を掴んだ。頭を足の間に入れ、勢い良く立ち上がる。
「!」
一瞬の間に風弥は肩車されてしまったのだった。あっという間の出来事に、風弥は言葉が出なかった。
「これなら、お前が取ったことになるだろう」
満面の笑みをたたえ、元希が柵ギリギリまで進んだ。竹林は風弥の手の届く範囲に一気に狭まった。しかし、風弥は恥ずかしくて顔を真っ赤に染めた。
元希の顔を覗き込み、必死に訴える。
「誰か来たらマズイって!」
「だったら、早く取っちまえよ」
「やっぱいい、諦めるから!降ろせよ!」
「・・・そうだな、どうしてこんな事したのか、理由を話してくれたら、降ろしてやるぞ」
どっちみち、風弥の完敗だった。風弥は目星を付けていた特別大きい笹の葉一枚をもぎ取ると、今度は元希の髪の毛をわしづかみにした。勿論八つ当たりの以外の何でもない。
「痛てっ!こら、バカやめろ!あっ・・・」
元希はバランスを崩しそのまま倒れこんだ。派手な音を立てて、アスファルトに尻餅をついたが、それでも何とか手を離さなかったので、風弥を肩に乗せたまま座り込んだような体勢になった。
二人分の全体重を負った元希の尻には、想像以上の痛みが走った。歯を食いしばり、何とか声をあげるのを堪えた元希だったが、それでもうっすらと目に涙が浮んでいた。
「・・・元希?・・・」
風弥は恐る恐る降りながら声をかけた。こんな展開になるとは、風弥自身も予想外だった。
「あの・・・ごめん・・・」
とりあえず謝ると、元希が風弥めがけて飛びついた。
「この野郎!なんてことしてくれた!」
台詞とは裏腹に、笑いながら風弥の首に手をまわす。
「わっ・・・苦しいって!放せ!」
「ダメだ!理由話すまで許さん!」
腕は風弥の首を包み込んで、ギリギリと締め上げる。
勿論元希は手加減をしているが、それを知っている風弥は、悪ノリで大げさに抵抗する。
「ギブ、ギブ!降参!」
その言葉を聞いた元希は、腕を緩めて風弥を解放した。
「・・・で、どうしてそれが欲しかったんだ?」
元希は腰の辺りを摩りながら、風弥に問う。風弥は少し恥ずかしそうに呟いた。
「智隼さんに、あげたくって・・・」
智隼のお土産は用意してあった、でも、何を買ったらいいか最後まで悩んだ挙句、オーソドックスな八橋になってしまい納得がいかなかった。風弥は自分が感動したこの景色の一部を、智隼へのプレゼントしようとしたのだった。
それを知った元希は、どうして風弥があそこまで自分の手にこだわっていたのか、すぐに検討がついた。これは自分でやらなければ意味の無いことなのだ。
「そっか・・・」
ここまで智隼のことを考えていたのだと思うと、少し複雑な心境の元希だった。
「なあ、風弥。久しぶりに競争するか!」
「は?」
突然の発案に風弥は首をかしげた。元希は立ち上がり、竹林の先を指さした。
「突き当たった場所がゴールだ!負けた方が勝った方の言う事を何でも聞くってのはどうだ?」
これはまさしく風弥に対する挑戦状だった。
「その約束、忘れんなよ!」
風弥はにやりと笑うと、元希の合図と共に一斉に走り出した。
二人は未知なる緑のトンネルを探検する冒険者になりきって、風に揺れる竹林の坂道を疾走した。
第六話 伍へ