第二話 参

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第二話 参

 

 



料理は無事に完成し、居間のテーブルには四人分のカルボナーラが並んだ。ケンは結局、何も作らずじまいだった。
四角いテーブルを囲み、風弥の向かいに朋之、右にケンという座席で腰を落ち着けた。風弥は座るなり「いたただきます」と言うが早いかフォークを掴み、勢い良くパスタを食べ始めた。
「はぁーっ、お前見かけによらず良く食うな・・・」
ケンはフォークにパスタを絡ませながら、呆れ顔で風弥の食欲に感心する。
「だって、腹へってたんだもん・・・」
風弥はパスタを口に含んだまま、ケンの質問に答える。風弥の頬はリスのように膨らんでいた。
「ねえ、風弥君っていくつなの?」
朋之は人数分のコップに、持参したアップルジュースを注ぎ分けながら、興味深げに質問する。
「えっと・・・来月中三になります」
食べる事に意識が集中している風弥は、朋之の質問を軽くあしらった。昨日のライヴでの集中力といい、風弥は一つのものに熱中すると他のものに目が行かなくなる性格なのだ。
「へぇ、そうなんだ!元希さんの幼馴染だって聞いていたから少し意外だなぁ・・・」
向かいにいる風弥の目の前に、注ぎ分けたジュースを置きつつ、朋之は驚きの眼差しを向ける。
「それにしても中三かぁ・・・育ち盛りだね!」
「朋之だって、高二だろ。お前だってまだまだ育ち盛りだよ」
この中で唯一、共通の知人である元希は、ティッシュをテーブルの中央に置きながら、空いているテーブルの前に座った。
「え!朋之さん、高校生なんですか!」
風弥は驚いた拍子にパスタが喉に詰まってしまった。苦しそうに胸を叩きながら、ジュースでパスタを流し込む。よく考えたら自分は『花鳥風月』の大ファンなのに、元希以外のメンバーの年齢や詳しい経歴を全くと言ってもいいほど知らなかった。ケンや朋之達とはキョリもあったし、彼ら自身大っぴらにライヴではっきりと説明をした事もなかったので、当たり前と言えば当たり前だ。
「そうか・・・風弥君は知らなかったっけ・・・。そんなに驚く事はないんじゃない?」
朋之はにっこりと笑った。背丈は元希とケンより低いが、朋之は大人っぽい顔立ちをしているのだ。そのため風弥は直感的に、元希と同い年かそれ程変わらないくらいだと勝手に思い込んでいたのだった。
朋之に関する新事実を知った風弥の頭の中では、連鎖的にケンに関する様々な憶測が飛び交った。風弥は自然とケンに視線を送る。
「あ。言っとくけど、俺は四月の二十八日で二十一歳。元希の一コ下なんだ」
風弥の表情から言いたい事を読み取ったケンは、すかさず説明を加える。
「え・・・じゃあケンさんも、元希みたいに大学行ってるんですか?」
風弥の幼い脳味噌は、短絡的な答えをはじき出す。
「いや、俺はフリーターってやつだ。『花鳥風月』の活動の傍ら、カラオケBOXとかレンタルビデオ店でバイトしてんだ」
「そうなんですか。知らなかったな」
同じバンド仲間なのに、元希とは正反対の生活をしているのだな。と、風弥は思った。
「風弥君今年受験でしょう?うちの高校来ない?」
一方の朋之はテーブルから少し身を乗り出し、会話を戻しつつ勧誘してきた。
「そーそー、お前智隼のファンだって元希から聞いたぞ。いっそのこと朋之の誘い、受けちまえばどうだ?智隼も朋之と同じ高校なんだぜ」
「え!智隼さんも高校生なんですか?」
ケンが提供した新たな話題は風弥の感心を得たが、とたんに朋之の顔から笑顔が消えた。
「・・・あ・・・」
ケンは自分の失言に気づき、閉口した。



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