書庫目次に戻る
第一部目次に戻る
第二話 壱に戻る
第二話 弐
浴槽はきれいに掃除されていた。
シャワーからお湯を出すと、白い湯気が浴室いっぱいに広がり、風弥の肌にまとわりついていたものが一気に流れ落ちていく。
シャワーに頭を突っ込み、風弥は茶色い髪の毛をかきあげた。この髪色は染めたわけではなく、母親の美弥からの遺伝で元々茶色みを帯びている。美弥の母親、つまり風弥の祖母はフランス人で風弥はその血を受け継いでいるわけなのだ。
体がさっぱりしたところで、脱衣所に引き上げる。雫の滴り落ちる髪をバスタオルで乱暴に拭くと、再び風弥の腹は空腹のサインを出し始めた。
そうだ、こんな所でのんびりしている訳にはいかない。風弥は素早く体を拭くと元希が用意してくれたTシャツとハーフパンツを広げた。元希の服なので、風弥が着るとかなり余裕があった。自分がチビなのが露骨にわかってしまい、風弥はいい気持ちがしない。しかし、こんな状況で文句は言っていられなかった。
風弥が居間に戻ると、なぜか大量の菓子がテーブルを埋め尽くしていた。
「・・・なんだ、一体・・・」
風弥は首をかしげた。『元希がこんな事する訳ないし』と思考が巡り始めた時、
「なーんだ、僕が最後か・・・」
風弥の後方から声がした。振り返ると、なんと朋之が風弥の真後ろに立って、例の如く菓子をつまんでいるではないか。風弥は思わず飛びのいた。
「とっ・・・朋之さん!」
今日は本当に心臓に悪い日だと、風弥は思った。
「風弥君も食べる?美味しいよ」
朋之は風弥にお菓子の袋を差し出した。
ケンと朋之の様子から、『花鳥風月』のメンバーが元希のアパートに集まるのはいつもの事のようだと風弥は判断した。
「こらっ、朋之!菓子ばっか食ってないでこっち手伝え!」
ケンが台所から怒鳴り散らした。ケンの後ろでは元希がフライパンでなにやら料理をしていた。
「今、元希がパスタ茹でているから、俺が付け合せ作ってやるんだ」
ケンは嬉しそうに手招きした。
「俺が料理するなんて滅多に無い事だそ。朋之、手伝え」
「やめといたほうがいいと思いますよ」
朋之は即座にいい放った。
「なっ、何でだよ!」
「元希さんはともかく、僕はケンさんの料理の腕は信用していませんから」
ケンに反撃の隙を与えることなく、朋之は笑顔で理由を述べた。
「・・・お前、本当はわかって言ってるだろう・・・」
ケンはありったけの憎しみを込めて、朋之を睨みつけた。
「何の事です?」
朋之は淡々と質問する。
「・・・・・・・・・」
話しても無駄と判断したケンは、黙って台所に引っ込んでしまった。
風弥の視線に気づいた朋之が愛想笑いを浮かべている。風弥は思わずその笑顔に警戒した。
そんな事をしているうちに、台所の奥からいいにおいが漂ってきた。風弥の腹の虫が再び活発になる。
「・・・腹減った・・・」
風弥はテーブルにもたれかかって呟いた。
第二話 参へ