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第九話 伍
機材一式の片付けが終る頃には、風弥も落ち着きを取り戻していた。着替えを済ませ、土倉に挨拶して外に出ると、空は雲に覆われており真っ暗だった。
ケンと朋之はそれぞれ車とバイクを取りに喫茶店の裏側にまわった。店の前には風弥と元希、そして智隼の三人が立っている。
「降りそうな空だな・・・」
元希が空を見上げながら心配そうな声で呟く。
雲は混沌として見えるはずの星達を邪魔していた。
「今日降るって、天気予報じゃ言ってたけど、ライヴ終るまで降らなくてラッキーだったな!」
同じように空を見上げ、風弥が言う。
「おう、お待たせ!」
喫茶店の駐車場に停めていた車を、ケンが出入り口に寄せる。すぐに後ろから朋之が、銀のバイクに乗って現れた。
「・・・智隼、今日はバイクじゃないの?」
「あっ・・・ああ・・・。今日は客のつもりだったし、バイクは塀にぶつかって、ダメになっちまってから新しいのまだ買ってないんだ・・・」
朋之は智隼に顔を近づけ、じっと見つめた。
「・・・なんだよ・・・」
「事故って、自爆だったの?」
自爆事故―一人でおこす事故で、不注意で障害物などに衝突する事などを言う。
「あっ・・・ああ。ちょっと考え事してたら、前見逃してさ・・・そのまま正面衝突よ」
「・・・それで、よく生きてるね・・・」
呆れ半分。感心半分といったところだろう。
「自慢じゃないが、運動神経もいいし、体力には自信があんだぜ!朋も知ってんだろ!」
「・・・智隼の場合は体力だけでしょ・・・」
得意の毒舌を繰りだすが、言われ慣れているのか、智隼には効いていないらしい。朋之はそのまま上から下まで智隼を見回した。
「見たところ、後遺症も無いみたいだし。本当に今度から気をつけなよ」
「おう!」
二人は互いに笑い合った。
「・・・じゃあ、元希とチビ助降ろしたら戻ってくるから、待ってろよ」
一区切りついたところで、ケンが運転席から身を乗り出す。どう考えても機材で一杯の車には四人も乗れなかった。
「まだ電車あるから、平気っすよ」
そう言うと、智隼は踵を返し、駅へと向かった。
「あっ・・・智隼さん!」
風弥は止めようとしたが、智隼の歩く速度は速く、あっという間に駅前に消えていった。
その様子を呆然と見つめていた風弥だったが、ケンが脇で呟いた。
「・・・あいつらしいと言うか、何て言うか・・・」
他人に迷惑をかけるのを嫌っていると言っていたが、風弥にはイマイチわからなかった。
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