第九話  六

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第九話 六


 

 



一足先にマンションに到着した風弥達は絶句した。
玄関のドアを開けたとたん、この世のものとは思えないおぞましいが広がっていたからだ。
足の踏み場が全く無く、一体どうやって暮らしているのか、一週間でなぜこれほどのものになるのか、風弥には全く想像がつかなかった。
「ケンさん」
朋之に呼び止められて、ケンは固まった。
「・・・・・・」
ケンには反論の余地がなかった。素直に反省しているらしい。
「・・・しょうがない。少し片付けるか」
そう言ったのは元希だった。
「元希ぃ・・・」
ケンにすがりつかれて、嫌とは言えない優しい元希だった。
勿論、風弥と朋之も巻き添えをくらい夜中の大掃除が始まった。それぞれが分担して床をあらわにするといったほうが正しいかもしれない。
人手があったおかげか、片付けは思ったよりも早く終りそうだった。
「じゃあ、俺ゴミ捨てて来るよ」
掃除が終盤に差し掛かり、風弥は目一杯詰まったゴミ袋を背負った。元希はキッチンで飲み物の仕度中、ケンは仕上げに黒いテーブルを拭いていた。
「ああ。頼む」
「ついでに、なんか買って来いよ」
ケンはポケットから財布を取り出すと、それを風弥に渡した。
「ゴミ捨て場から少し行ったトコにコンビニあるから、菓子とかツマミ、宜しく。あっ、ついでに酒とか飲みたかったら、俺の名前出せばOKだぜ。今の時間ならバイトの兄ちゃんと結構仲いいから」
「こら、ケン!風弥はまだ未成年だぞ!」
元希がケンを睨む。
「大丈夫。相変わらず堅物だなぁ元希は。俺はチビ助ぐらいの時から姉貴に付き合わされて飲んでたけど、全然問題ないって」
「大有りだ!」
元希とケンの対決を脇目に、風弥はこれ以上重い袋を背負っていたくなかったので、そそくさと部屋を出て行った。
エレベーターのボタンを押して待っていると、風弥は背後から誰かの気配を感じた。
とっさに振り返ると、そこには満面の笑みの朋之が立っている。
「朋之さん!」
そしてタイミングよくエレベーターのドアが開き、二人は階下に下っていった。
マンション入り口の一角に、コンクリートとブロックで出来たゴミ捨て場があった。隅の方に寄せて置くと、風弥と朋之はコンビニに向かった。
朋之がついてきた理由がお菓子目的だという事はわかっていたが、智隼が現れた今、風弥はとても気まずかった。なにより、面倒なゴミ捨てを口実に、智隼を駅まで迎えに行くつもりだったのに。
風弥が一人で思考を巡らしていると、先を歩いていた朋之がなぜか、目的のコンビニの前を素通りして、駅の方に黙々と歩いていた。
「え・・・あっ・・・朋之さん?」
早歩きで朋之の脇につく風弥。
「コンビニ通り過ぎてどこ行くんですか?」
「どこって、駅前のスーパーだよ。あそこは遅くまでやってるから、今だったらまだギリギリで間に合うと思うよ」
朋之は風弥に向き直り、にこりと微笑んだ。
「それに、上手くいけばこっちに向かっている智隼と会えるしね」
どうやら朋之も同じ事を考えていたようだ。
風弥はそれがおかしくて自然と笑ってしまった。


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