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第八話 参
その後、風弥は電車を乗り継ぎ、十二時を少しまわった頃には繁華街に降り立った。
目的は元希の誕生日プレゼントだ。
とりあえず、人ごみの流れに沿って通りを歩いて店を見るが、なかなかピンと来る物が見つからない。いっそのこと、京都のお土産をプレゼント代わりに・・・なんて事も考えてみたが、それは風弥のプライドが許さなかった。
「元希の欲しい物って、なんだろう・・・」
思わずため息が漏れた。
実は元希に誕生日プレゼントを買うのは今回が初めての事なのだ。
去年までは料理の手伝いでごまかしていたが、今年は是が非でもプレゼントしたかった。
『花鳥風月』の『フウ』になってから、約二ヶ月。
初めてステージに立った時から、風弥は元希に世話になりっぱなしだと感じていた。
・・・それに一昨日の事もある。
たまには風弥から何かしてあげたい。感謝の気持ちを形にしたいと思っていたのだ。
そこで考えてみるが、自分なんかCDやマンガ本、欲しい物をあげたらキリがないというのに、元希の事になると一つも思い浮かばない。
「服っていったって、きっと高いだろうし・・・アクセサリーだって、元希あんまり付けないし・・・」
昔から元希は普段から着飾る事をあまり好まない。服もそれ程持っていないし、シンプルなデザインの物が多い。指輪やネックレスなどアクセサリーの類は、ライヴの時以外は身に付けている所なんて見た事がなかった。
「元希が好きそうな物・・・元希が好きそうな物・・・」
大通りを歩きながら、呪文のように口の中で繰り返す。
「・・・紅茶!・・・はダメか。元希の方が断然詳しいし・・・」
風弥は頭を振り、ボツアイデイアを消し去った。
「・・・調味料!・・・って、俺全然わかんないし・・・第一、食いもんってのもなぁ・・・」
時間が時間なだけに、風弥の頭に浮ぶのは食べ物のことばかりであった。
浮んでは次々と消えていくアイディア。風弥の頭脳が限界に達した時、最後の最後で名案が浮んだ。
「・・・そうだ!」
切羽詰れば脳はフル回転するものと、相場は決まっている。
風弥は空腹も忘れて、なるだけ色々な店を見てまわった。
とある店を出た風弥の手には、小さなビニール袋がぶら下がっていた。袋の中身は手のひら半分程の小さな小箱だった。
「・・・プレゼントは決まった。後は・・・」
風弥は手荷物を眺めながら呟いた。
「後は・・・」
どうやら風弥には、もう一つ企みがあるようだ。一瞬ためらいの表情を見せるが、覚悟を決めたらしく、真っ直ぐ顔を上げた。
「『フウ』じゃなくて、『根本風弥』としてお礼がしたいんだ」
しっかりとした足取りで駅に向かう風弥は、心の中でそう何度も何度も呟いた。
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