第八話 弐

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第八話 弐

 



翌日の朝を迎えた。時計を見ると、十時をまわっていた。
昨日遅くまでテスト勉強で机に向かったから、少し寝坊したようだ。中間テストは国語・数学・理科・社会・英語の五教科なので、何とかなりそうだった。期末テストだと、さらに実技の美術・音楽・技術家庭・保健体育が加わる。これが期末でなくて本当に良かったと風弥は思った。
遅めの朝食のために台所に向かうと、美弥はパートに行く仕度をしている最中だった。
「おはよう」
風弥に気が付くと、美弥は準備の手を止めた。風弥は台所と居間を交互に見渡すが、今日は休みで家にいるはずの父親の姿が見えなかった。
「あれ、今日父さん休みだよね?」
風弥はカレンダーに目を通した。
風弥の父『根本育生』は、電子機器メーカーに務めるサラリーマンである。休みは不定期なので、根本家のカレンダーは育生の出勤表と化していた。
「例の如く練習場よ。何でも、明日コンペがあるんだって・・・」
そして、ゴルフが何よりの楽しみなので、仕事を終えるとそのまま練習場に行く事も、しばしばあった。それは風弥も美弥も慣れていることだった。
明日というキーワードで、風弥は色々あってすっかり忘れていた、重要な事を思い出した。
「そうだ母さん。明日、元希来るって言ってたよ」
一昨日の帰り際に、さらりと言われただけだったので、危うく言い忘れるところだった。美弥は壁にかけられているカレンダーで日付を確認した。
「明日は二十五日・・・そっか、明後日は元希君の誕生日だったわね」
納得したらしく、美弥は頷きながらポンと手を叩いた。元希は両親や自分の誕生日などのイベントがある時は、その日が平日だと大概は前後の日曜日に必ず戻ってくるのだった。
「大変こうしちゃいられないわ!希理子ちゃんに相談しなきゃ!あと、育生さんにもコンペさっさと切り上げるように言わなきゃ!」
小さい頃から成長を見守ってきた美弥にとって、元希はもう一人の息子同然なのだ。
希理子ちゃんとは元希の母親の事である。おかげで今でも風弥は「希理子ちゃん」と呼ぶ癖が抜けなかった。
「この前は失敗しちゃったけど、今回こそは絶対、美味しいケーキ作るわよ!」
美弥は張り切っているが、実は美弥が焼いたケーキが美味しかったためしは無いのである。風弥は確信していた。今回も絶対失敗すると・・・。
「あっ、そうだ。俺これから出かけるから!」
風弥はもう一つ言い忘れた事を付け足した。
「・・・あら、そうなの?どこに」
一応息子の行く場所くらいは把握しておくのが母親というものだ。
「うーん・・・多分東京の方かな?」
「あら、珍しいわね」
「・・・ちょっと欲しい物があるんだよ」
「・・・欲しい物って?」
「いいじゃん、なんだって・・・・」
色々と詮索してくる美弥を振り切って、風弥は顔を洗いに洗面台に向かった。


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