第八話 七

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第八話 七

 



食事の用意が殆ど終ったところで、再び呼び鈴が鳴る。
今度こそ風弥だと思った元希は、大急ぎで玄関に向かった。
しかし、今度は風弥の父親『根本育生』だった。
「やあ、元希君久しぶり」
「・・・・こんにちは、おじさん」
「元則君いるかね?」
元則とは元希の父の名である。
「はい。母さん達に邪魔者扱いされて二階の書斎にいます」
「・・・そうかありがとう」
礼を言うと育生はスリッパを履き、二階へと上がっていった。
母親と子供同士の仲が良いと、自然と父親同士の交流も増える。お互いゴルフという共通の趣味を持ってから、何かと語る機会は多くなったようだ。
元希がまたもや暇を持て余していると、暫くして再び呼び鈴が鳴った。
今度こそ。と、元希は気合を入れて玄関の扉を開ける。
「・・・どうしたの、元希?そんな怖い顔して・・・」
扉の先から表れた風弥は、目を丸くしていた。頭の中からは、努めて昨日の事を・・・智隼の事を忘れるようにして。
「・・・えっ、そうか?」
元希の問いに風弥は大げさに頷く。
気合が入りすぎて眉間に入っているのを本人はわかっていないようだった。風弥はそんな事は大して気にせず、元希の手を掴んだ。そのまま玄関から連れ出しにかかる。
「おい、なんだよいきなり!」
「いいから、こっち!」
風弥は問答無用で元希を根本家に案内した。勿論、母親達に声をかけてから。


「で?」
元希は根元家二階の、風弥の自室に案内された。普段は風弥の特等席で、誰も近づけないベッドの上に腰をおろしている。
しかも部屋を見渡せば、小奇麗に片付けられていた。これが、部屋にこもっていた理由らしいが、掃除に半日もかかる部屋が元希には想像できなかった。
風弥は部屋の中央に立っていた。緊張しているのか、顔が僅かに赤く染まっている。
「・・・あのさ、元希」
「・・・何だ?」
「絶対動くなよ!」
言葉の意味は分からなかったが、元希はとりあえず頷いた。
風弥は目を閉じる。完全な沈黙だったが、重い空気ではない。集中するための時間だ。
ゆっくりと深呼吸してから、『風弥』は歌いだした。

  Happy Birthday to you
  Happy Birthday to you
  Happy Birthday Dear 『MOTOKI』
  
  …Happy Birthday to you

再び沈黙が流れる。それはとても長く感じられた。


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