第七話 八

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第七話 八

 



風弥が家に帰った頃には、すでに九時をまわっていた。
ケーキついでに、元希の家で賑やかに夕飯まで食べたので、当然の事だった。
「お帰り」
美弥は居間でテレビを見ている。台所に行くとテーブルの上はきれいに片付けられていた。
「なかなか帰って来ないから夕飯食べちゃったわよ」
「いいよ。元希のトコで食べてきたから」
上着を脱ぎイスにかけると、風弥は冷蔵庫を開けて、中から牛乳パックを取り出した。
「あら、元希君の所行ってたの?」
「うん。ちょっとあってね・・・」
戸棚からコップを取り出し、八分目程牛乳を注ぐと、風弥は牛乳を再び冷蔵庫にしまった。
「またバンド?」
「・・・まぁそんなトコかな?」
視線を合わせないまま、母子の会話は続く。
「父さんは?」
「今日は、付き合いで飲みに行くんだって・・・」
「ふーん・・・」
関心無さそうに相槌を打つ風弥。そして牛乳を飲み干すと、空のコップを流し台に置いた。
「・・・あのさ、母さん」
「・・・何?」
美弥は風弥に背中を向けたままだった。
「俺さ、高校行くから。いいだろ?」
その瞬間、美弥が振り返った。じっと、風弥の顔を見つめる。いくら母親とは言え、一心に見つめられると気味が悪い。
「とにかく!そういう事だからな!父さんにも言ってくれよ!」
明らかに動揺した風弥はそのまま二階に駆け上がった。美弥は微かに笑うと、再び視線をテレビに戻した。


その日の夜、風弥は拒否し続けていた進路希望調査のプリントにこう記入した。答えらしい答えではないが、自身の心の中では大きな一区切りである。
「とりあえず、高校進学」
プリントを鞄にしまいこむと、明日の為に風弥は早めに床についたのだった。


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